【なつやすみプロデュースノート】奥山沙織の台詞に見る北東北方言へのステレオタイプ


 この記事は、稲本海による、im@stodonのブログリレー企画「なつやすみプロデュースノート」の23日目の記事です。
 前日の記事は、みずいろこねこさんの、拙作「大切な貴方へ。」についての解説と考察でした。公式に公開されているテキストから解釈を広げ創作をしていく作業、これは本当に楽しいものですね。

 さて、今回初めてブログリレー企画に参加しますが、私のプロデューサーとしての自己紹介については、このブログの過去の記事をご参照ください。簡単に申し上げますと、デレアニから入り、デレステを始め、Tulipで沼入り、デレ4thライブをLVに見てさらに沈み、デレ5thツアー宮城公演で初めて現地に行き、ミリシタも始め、ミリ5thライブのLVでミリオンにも沼入り、現在に至る、というところです。

 そんな私が今回取り上げるテーマは、「奥山沙織の台詞に見る北東北方言へのステレオタイプです。



 奥山沙織は、秋田県出身の19歳。アイドルになりたいという子供の頃からの夢を叶えるために、秋田のど田舎の村から単身上京したという子です。
 そんな彼女の大きな特徴が、訛り
 シンデレラガールズ古今東西さまざまな地域出身者がいるわけですが、常時方言を押し出しているのは、この奥山沙織と、大阪出身の難波笑美、福岡出身の上田鈴帆くらいでしょう。秋田県出身のアイドルとしては、他にも十時愛梨、井村雪菜、相原雪乃、喜多日菜子と、秋田県の全国に占める人口比率の割にはずいぶんと頭数がいるわけですが、方言どころか、秋田出身というところがフィーチャーされることもあまりないように見受けられます。

 しかし、せっかく訛りというアイデンティティを与えられているのにもかかわらず、非常に残念な点がひとつあります。

 それは、訛りが実際に使用されているものとは合っていないということです。

 「名探偵コナン」のアニメに第651話「コナンVS平次 東西探偵推理勝負」というエピソードがあります。
 関西人には、よそ者が適当な関西方言を喋っていると怒る、という特徴があることを利用し、コナンがめちゃくちゃな関西方言を使うことで、関西人の犯人をあぶりだす、という解決方法が用いられています。
 青森県出身の私としても、これと同様、津軽弁をはじめとした北東北地方の方言について、非常に再現度が低いものを耳にすると怒る……とまではいかないにせよ、それなりの不快感を覚えます。
 奥山沙織は秋田県出身であるため、実際に使用していると思われる方言は秋田弁であり、私が使用している津軽弁とは異なるところもありますが、同じ北東北地方の方言として共通するところも多いので、いくつかの台詞を抜粋して、どのような間違いがあるのかを見ていきます。

 検証の結果、以下のようなステレオタイプが強く働いており、それに起因する間違いが多いようです。

 ①助詞「さ」を使う

 ②いっぱい濁点がつく

①助詞「さ」を使う
 助詞「さ」を使うという事実だけが頭にあるのか、どんな助詞も「さ」で置き換えてしまいがちのようです。しかし、「さ」は、基本的に、共通語の助詞「に」と対応するという関係が存在します。

【例1】



 訳:プロデューサーさん、ゆっくり羽伸ばして、仕事の疲れ癒してください
   ――[ピュアリーガール]奥山沙織

 共通語の助詞「を」が全部「さ」になっていますが、前述のとおり、「さ」は共通語の「に」に対応しますので間違っています。


【例2】



 訳:プロデューサーさん、長旅で電車揺られて腰痛くなったんですか?
   ――[ピュアリーガール]奥山沙織

 全部間違って使っているのかと思ったら、正しく「さ」を使っているところと、間違っているところが混在しています。「腰」のあとは共通語では「が」ですので、「さ」は対応しません。一方、「電車」のあとは共通語の「に」に対応して「さ」が用いられており、正当です。


【例3】



 訳:この駅で電車乗って、往復4時間かけて学校通ってたんですよ
   ――[ピュアリーガール]奥山沙織

 不思議なことに、この文に関しては、共通語の「に」に対してすべて正しく「さ」が用いられています。


【例4】



 訳:(プロデューサー名)さん、わたし、村出た頃より垢抜けましたかね?
   ――[ピュアリーガール]奥山沙織

 これはかなり致命的な間違いです。「村さ」だと、共通語では「村に」になりますから、「村出た頃より垢抜けましたかね?」という文になってしまいます。この文で言いたいことは「村出た頃より垢抜けましたかね?」ですから、助詞「さ」を誤用してしまったことにより、文意がまったく逆になります

 ここまで見ると、どうも、共通語の助詞「を」に対して「さ」をあてがっているという間違いが多いようです。
 ちなみに、北東北方言では、「を」に対応する助詞としては「ば」があります。また、共通語の助詞「が」については、代わりの助詞を入れることなく省略します。
 そのため、ここまでの例を直すとすれば、
【例1】プロデューサーさん、ゆっくり羽伸ばして、仕事の疲れ癒してください
【例2】プロデューサーさん、長旅で電車さ揺られて腰痛ぐなったんですか?
【例4】(プロデューサー名)さん、わだす、村出た頃より垢抜けましたかね?(もしくは「ば」も使わず「村出た」)

となろうかと思います。


②いっぱい濁点がつく
 確かに北東北方言は共通語に比べて濁点がつくことが多いですが、どこにでもつくというわけではありません。しかし、どういうときにつくか、というのを一言で表現しようとするとこれが非常に難しい。私たちも、無意識に濁点をつけたりつけなかったりしているというのが正直なところです。
 ここで、秋田県のご当地ヒーローで、秋田県内ではCMやイベントに引っ張りだこの超神ネイガーさんによる解説を引用します。

 これに基づいて奥山沙織の台詞を見てみます。

【例5】




【例6】





【例7】





【例8】




 例5~7では促音「っ」のあとの「て」、例8では促音「っ」のあとの「た」が濁音になっていますが、超神ネイガーさんの解説に倣えば、いずれも濁らないのが正当です。

 ……あれ?

 もう一度、例6、例7、例8を見てください。先ほど紹介した、助詞の「ば」が登場していますね。
 例5~8はいずれも奥山沙織のメモリアルコミュ4です。
 実はこの奥山沙織のメモリアルコミュ4なんですが、それまでのコミュに比べると、私が読んでも訛りに対する違和感が少ないんですよ。もしかしたら、コミュを追加する際に、これまでのコミュについて届いていたネイティブ方言話者のご意見をフィードバックしたのかもしれません。
 と思ったら。

【例9】



        ∧∧       
       ヽ(・ω・)/   ズコー  
      \(.\ ノ
    、ハ,,、  ̄
 そこで「ば」は使わない!「さ」も要らない!「お米ー、新しいお米を出ましたよー!おいしいお米っこに、よかったらおひとつどうですかー?」になって意味不明!
 正しくは、
【例9】お米ー、新しいお米出ましたよー!めっけぇお米っこ、いがったらおひとつどうですかー?
 ……正しい北東北方言への道のりは、まだまだ続くようです。


 さて、話は変わりまして、そもそもなぜ正しい北東北方言が表現されないのでしょう?

 図録▽方言に対する感じ方(都道府県比較)

 1996年とだいぶ古い調査になりますが、これは都道府県ごとに「地方なまりが出るのは恥ずかしい」「土地のことばが好き」2つの回答結果を示した図です。
 これもこれでステレオタイプ的な論じ方ではあるのですが、このアンケートの結果では、関西の府県については「恥ずかしい」の解答割合が低いことがわかります。関西出身者は、この「恥ずかしくない」という感情の下に、関西を出ても関西方言を使っていることが多いのではないでしょうか。そうすると、あ、あの人は関西出身だ、ということがわかりますし、関西方言のテキストを書こうとするときの参照先になりうるわけです。
 逆に、このページの文中にもあるように、秋田、青森、岩手の北東北三県は、「好きだけど恥ずかしい」という傾向が強いことが読み取れます。

 冒頭で、正しくない北東北方言を聞くと不快感を覚える、というお話をしましたが、この不快感は、きっと、私自身が自分の方言が好きだからこそ生まれるものなのかな、と思います。
 しかしここで、もう一方の要素「恥ずかしい」が影響力を発揮するのではないでしょうか。

 北東北の人間は、恥ずかしいから、自分の地元以外では北東北方言を出さない。
 方言を出さないから、他地域では北東北出身であるというアイデンティティが埋没する。
 他地域の人は、北東北方言を聞く機会が少なく、なじみがない。
 北東北出身者のアイデンティティが埋没しているので、他地域の人はその存在を認知できず、正しい北東北方言を参照できない。

 もしかすると、こういった状況が、正しくない北東北方言のテキストを生む原因になっているのかもしれません。

 とはいえ、SNSで手軽にいろんな地域の人と繋がれるのが現代です。ちょっと探せば、その土地の方言のネイティブスピーカーがわんさか出てくることでしょう。北東北出身者は、恥ずかしがってるかもしれないけど、方言が好きなこともまた事実なわけです。方言=自分が好きなものに興味を持ってくれるのは、間違いなく嬉しいことです。

 皆さんもぜひ、いろんな地域の人と繋がる過程で、その地域の方言に興味を持ってみてはいかがでしょう?テキストの創作の奥深さも増すと思いますよ。もちろん、私への相談もウェルカムです。青森県出身アイドルはシンデレラガールズだけでなく、SideMにも、シャイニーカラーズにもいますので、もし青森県の方言についての情報がご入用でしたら、ぜひ気軽に相談してください。

 明日、24日目はなつさんの「99 Nightsとさよならアンドロメダを深読みオタクが考察してみる」です。さよならアンドロメダ、いい曲ですよね。特に、大和亜季役・村中知さんが、役のイメージ(素の本人のテンションのイメージもありますが)とはギャップのある、あのような切なげな歌声を出していることにびっくりしましたし、そこにエモさを感じました。