【#ベベカレ2019】シャイニーカラーズの楽曲は、「おいしい音」の詰め合わせ

 この記事は、ジョンべべベント・カレンダー 2019の21日目の記事です。前日の記事は、やこさんの「風野灯織はどこ住み?です。アイドルの出身地考察とか居住地考察は、地理オタクの私としても非常に興味深いテーマでした。

 さて、今回の私の記事のテーマは

シャイニーカラーズの楽曲は、「おいしい音」の詰め合わせ

 アイドルマスターの歴史は楽曲抜きに語ることはできません。昨年からTHE IDOLM@STER MUSIC ON THE RADIOという番組も始まったこともあり、10年以上にわたって様々なタイトルで続くアイマスという枠組みの中で生まれた楽曲、それらに横断的に触れられる機会もできました。今回はその中でも、アイマスの中で最も新しいシャイニーカラーズの楽曲について、音楽理論的な観点から良さを語りたいと思います。

 テーマにもあるように、ポイントとなるのは「おいしい音」です。ここでの「おいしい」は、特に芸人さんがよく使うような、「おもしろさを引き受ける立ち位置にあること」という意味です。音楽の中にも、「この音があることによって、曲の面白さや感動が生まれる!」という場面が多々あり、それはアイマス楽曲も例外ではありません。中でも、シャイニーカラーズの楽曲は、比較的シンプルで、あまり奇をてらわない王道の作り方をしているものが多い(※個人の感想です)ため、それゆえに「おいしい音」の出現が目立ちますし、効果的なのです。

 この記事を読む前に、以前のブログリレー企画の記事【#imas_この曲語らせて】トキメキの音符になって――巧妙に仕組まれた「隠れ転調」を読んでいただきますと、より理解が深まるかもしれません。

 前置きが長くなりましたが、早速実例を紹介していきましょう。

Spread the Wings!!

 まずはシャイニーカラーズ最初の全体曲であり、代表曲とも言えるこの曲から。コールになりがちなカッコ書き歌詞や、PPPHを入れやすい長音符主体のBメロなど、これまでのアイマス全体曲と同様、楽しく親しみやすい曲になっています。この曲で取り上げたい「おいしい音」はこちら。

 サビの最後の部分にあるこの音です。
 曲を作るときには、原則としてその曲の「調」=「7つの音のパッケージ」に含まれる音を並べていきます。しかし、時々そのパッケージに含まれない音(半音上げたり下げたり)を使うことがあります。そういった場合には、上記のように、音符に臨時記号を付加して表現します。臨時記号のついた音は、その楽曲の調から外れているので、聞き手に対して、緊張感や不安定な印象を与えます。しかし、不安定な時間があるからこそ、早く安定な状態になりたい=曲の先の方を聞きたいという気持ちが生まれますし、安定に戻った時に感動が生まれるのです。こういった展開を音楽理論ではよく「解決」と表現します。特にシャイニーカラーズの楽曲には、この解決が用いられているものが多く存在します。
 しかも「Spread the Wings!!」のラスサビ、”可能性「で」”のところで、この不安定な音がなんと数倍の長さになります。その長い長い不安定が終わった後の解決には、これまでよりも大きな感動があるのです。

ヒカリのdestination

 イルミネーションスターズ3人の掛け合いが印象的なこの曲。「おいしい音」もそんな掛け合い部分に出現します。

 同じようなメロディの繰り返しなのですが、真乃が歌う部分にだけ臨時記号がついています。「Spread the Wings!!」と同じ、調から外れた不安定な音です。臨時記号を使わずに単純に繰り返しでもいいのですが、あえてこうして変化をつけているという点、さらに、3人が合わさって歌うところで不安定状態が消え去って解決になるという点、これらが感動を生む要素になっています。
 ちなみに、こういう音は歌うのが結構難しいです。これをバシっと決められる真乃役・関根瞳さんの歌唱能力の高さがうかがえる部分でもあります。

ハピリリ

 続いてはアルストロメリアの「ハピリリ」です。アルストロメリアの楽曲は比較的におしゃれな作りで、その分若干構造が複雑です。

 赤丸の音は、調から外れた不安定な音。次の小節で解決します。
 さらに、青丸のついた小節に注目しましょう。楽譜の上にあるアルファベットの記号は「コード」といい、簡単に言うと曲のその部分の裏オケではどんな和音が奏でられているかというのを表現したものです。特にギターを弾く場合には、このコードを見ることで、どの弦のどのへんを押さえるのか?というのがわかります。
 この小節では、歌の音はすべて同じF=ファなのですが、コードが途中で変わっています。変わった後のB♭mというコードには、実はこの曲の調にない音が含まれているため、とても良く目立ちます。裏オケも細かく見ていくと、楽曲に変化をつける要素が散りばめられているんですよ。

夢咲きAfter school

 とにかくコールがたくさんあって楽しい、放課後クライマックスガールズが歌うライブの花形曲。実はその楽しさも、綿密に計算された音楽的な構造があってこそのものです。

 この部分の歌の音には臨時記号がなく、不安定要素がありません。しかし、青い四角で囲った部分のAというコード、これにはこれにはこの曲の調にない音が含まれています。そうした不安定な状態がなんと3小節もの間続きます。そしてその後に入ってくるものこそ、小宮果穂の「なんばーわ゛ん゛っ゛! 」。しかもここは裏オケは無音。不安定な状態から一気に解放された瞬間に差し込まれる小宮果穂の力強い叫びに、聞き手は強い感動と興奮を覚えるのです。

Ambitious Eve

 1stライブで新曲として披露されて大きな感動を生んだこの曲。一度聞いただけで、サビから転調するところに惚れ込んだのですが、今回この記事を書くにあたって音を拾ってみたところ、その緻密な構造に感動しました。

 Bメロからサビに移る転調部分を抜粋しました。注目してほしいのは緑色で囲んだ部分です。ここには臨時記号のついた音符が一つもありません。Bメロからサビに移行する際に転調するけれど、両方の調に共通した音だけを使っているんです。だから、ここに不安定さを感じることもないし、ものすごくスムーズに転調が行われたという印象を受けるんですね。しかも、Aメロ・Bメロは短調(暗い音楽の調)なのに対し、サビは長調(明るい音楽の調)になるので、この転調より一層の爽快感が生まれるのです。

おわりに

 長々と御託を並べてまいりましたが、この記事で伝えたいのは、歌というのは、詞ももちろんだけど、曲も感動を生むように綿密に設計された上で作られている、ということです。
 みなさんが歌を聞いていて、なんとなーく、「ここすき」って思う部分があると思いますが、そういう部分を理論的に分析していくと、実はこういう「おいしい音」がそこかしこに隠れていたりします。
 また、「おいしい音」の使い方には作曲家ごとに共通するクセみたいなものがあります。自分好みの「おいしい音」が含まれる楽曲に出会えたら、その作曲家さんが作った、他コンテンツの楽曲を聞きに行ったりするのもまた一興かもしれません。

 明日の担当はまつたけんさんで、テーマは「活動記録2019_白菊ほたる編です。熱心な白菊ほたる担当であるまつたけんさんにとって、白菊ほたるにボイスが実装されたこの2019年は激動の年であったことに違いありません。どんな活動報告になるのか楽しみです!