6年ぶりの途中下車シリーズ作品公開にあたって

なんで作ったの

 2020年3月14日、東日本大震災以来一部区間で不通が続いていた常磐線が、ついに全線再開を果たしました。震災当時仙台に住んでいた私にとっても、この全線再開は非常に感慨深いことでした。
 しかし、世界中を混乱させているかのウイルスのせいで、全線再開に伴う一連の式典も中止されることが事前に発表されていました。ウイルスに関する暗い話題ばかりが目立ち、それに影響されてか自分のメンタルの状態が悪くなる一方であったため、私は思い切って、全線再開翌日の3月15日から、1泊2日で常磐線を乗り通す旅に出かけました。再開日の14日の雨模様とは打って変わって青空だった2日間。いわきでは、アクアマリンふくしまや石炭化石館といった観光地を巡った後、友人と会って飲み、夜は湯本の温泉宿に泊まるという行程で、大変良い気分転換になりました。
 ただその後、ウイルスを取り巻く状況はさらに悪化。大規模イベントは次々と中止となり、外出の自粛が叫ばれる昨今。せっかく回復した私自身の気持ちもまた落ち込むこととなりました。しかも、もう気分転換で出かけるということすらできない状況です。

 そんなときに、ふと、これを作ろうと思い立ちました。

 じっと家にこもっているだけの退屈な時間を、何か有意義に使いたい。
 本当はもっと盛大に祝われるはずだった常磐線の再開を、私も祝いたい。
 放送の音声を曲に乗せていき、出来上がったトラックに動画を付けていき、少しずつ作品が形になっていくのを見ていると、ワクワクした気持ちが湧いてきました。
 インターネットにおける私の表現の嚆矢であったこのジャンル。このジャンルにこうして心を救われるときが来るとは、驚いたものです。

作ってみてどうだったの

 およそ6年ぶりに途中下車MADを作ったわけですが、自分で作ってても、刻みをやらずに、もともとのセリフの一文字一文字を音符に乗せていくスタイルになっていくあたりが「やっぱりこういう作風なんだなあ」って感じです。
 動画については、このジャンルの最近の流行りであるキネティックタイポグラフィ的なものを取り入れたいなと思って作りました。もともとのトラックの長さがあまりないので、ごく一部にとどまりましたが、いい練習になりました。
 最後のE657が走るところはグリーンバックのMMDを出力して、これをAviUtlでクロマキー合成したものです。モデルはRailsimプラグインなんですが、作者さん(https://ryotec.dousetsu.com/)の利用許可範囲が大変寛大でしたので、それに甘えてMMDに取り込んで使用させていただきました。
 AviUtlの使い方が少しずつ分かってきたところで、PCのスペックが格段に向上したので、昔に比べると結構凝った作りの動画が楽に作れるようになりました。せっかく獲得した技術なので、何か別の活用機会を模索したいですね。

てかお前社会人になったからもう辞める言うとったやんけ

 動画に「社会人になってもまだ未練がましく作ってるんだな」というコメントがありまして、なんと私の8年前の発言を覚えていらっしゃる方がいたということで、それほどまで長く私に注目していただけているというのは大変ありがたいことですね。
 8年前、私は社会人になるにあたって、それまでニコニコ動画公開していた鉄道音MAD、いわゆる大変な途中下車シリーズ作品をすべて削除しました。
 私の作品は、多いものでは1万再生以上されており、多くの皆様から親しまれていた一方で、デリケートな存在というか、ほぼブラック寄りのグレーの存在というか、そういう性質のあるMADを公開していることに、当時私はなんとなく後ろめたい思いを抱えていました。社会人になるにあたって、もしかしたらこうしたMADの作者であるという事実が、自分の(リアルにおける)社会的立場に対する脅威になる可能性を過度に恐れて削除したというのが、実際のところです。
 しかしこの8年の間に、ニコニコ動画やMAD動画を取り巻く環境というのはだいぶ変わってきたように思います。音MAD動画作者がその技術を生かして映像会社に就職したり、実在の歌手を音素材とした人力VOCALOID動画がその歌手本人サイドに捕捉されて、そのうえ歌手本人の歌唱動画が出たりするという事例があります。MADがほぼブラック寄りのグレーの存在であることには変わりないのですが、そうした中でも、MADも自由な創作活動のひとつとして、必ずしも「全面的に悪なもの」とはならない環境になってきたのかな、と個人的に感じています。
 今回作品を公開したのは、以上のような環境の変化を私が感じた、というのも一つの理由です。
 私からの説明はここまで書いてきたとおりであります。私に対して批判的なコメントを書き込むことができる場である動画を8年間にわたりお待ちいただいていた皆様もいらっしゃいますが、動画を公開してからの再生数やマイリスト数の伸び、Twitter等での反応を見ますと、今回の作品公開を好意的に受け取ってくださった方が大多数だと感じています。今後不快に感じるコメントがありましたら、更にコメントで反論したりせずに、視聴者の皆様各自でのNG設定等で対応していただければと思います。

で、結局お前復帰すんの?

 今回は、自らも経験した震災、そこから鉄道路線の復旧というシチュエーションですとか、ウイルス禍による世の中の暗いムードですとか、それに伴う自分のメンタル悪化ですとか、さまざまな要素が絡み合って、一種の気まぐれで作品の公開に至ったものです。そのため、今後継続的・定期的に作品を公開していこうという意志は特にありません。
 とはいえ、前述の通り、こうした作品に対する後ろめたい気持ちみたいなものは軽減されたので、また何かの気まぐれが起こることはあるかもしれません。そのときはまた、温かく見ていただければと思います。